2021.11.04
一次産業愛!
一次産業。それは「直接自然界に働き掛ける」産業。農業・畜産業・林業・漁業…。その仕事場は大地であり山であり海。今回、「キミヘ」が注目するのは、そこで働こうと道を定めたワカモノたちや、その道に進もうと学ぶ学生たち。まずは“芸人業”の傍ら、山形県で農業する姿を全国に発信しているソラシドの本坊元児さんに、農業をする理由を聞きました
芸人のボクが、
山形で農業をする理由
本坊元児(ソラシド)
H O N B O U G A N J I
I n t e r v i e w
―「住みます芸人」として山形県に移住後、西川町の耕作放棄地で農業を始め、その様子に密着したテレビ番組が全国放送されるなど話題となっています。そもそも農業に取り組んだきっかけは?
もともと農業に興味はなかったんです。でも、たまたま知り合いになった山辺町のおじさんが「西川に空き家があるから、そこでなんかやってみないか」と。家と農地を貸してくれることになったんです。
その前から「住みます芸人」として地域で役に立つ事業をするよう言われていて、所属事務所は「農業がいいんじゃないか」なんて言ってきたんですけど、はじめの頃は「そんなんしにきたのちゃうねん」って反発してたんですね。でもコロナ禍で仕事がなくなり、自分で食べるため畑に2㌔のジャガイモを植えてみたら、100個ほどになった。成果が目に見えて形になった。芸人を20年やってて結果が出なかったぼくにとって、これは面白かったですね。
で、もっと本格的に取り組んでみようと。少し離れた、草ボウボウだった400平方㍍の畑を耕し始めました。大変だったけど、誰にやらされているわけでもなかったから、楽しかったんです。東京の芸人にはできないことをやってやろうという下心もありました。そんな様子を配信していたら、仕事が2〜3倍に増えていました。
―手伝ってくれる人も多かったとか?
はい。近くに住んでいるおじいちゃんおばあちゃんとかが、気に掛けてくれて、いろいろ教えてくれました。道の駅などで野菜を売っていると、早く黒字転換したくて少し高値を付けたら、プロの方より高くなってしまうこともあるんですけど、プロの方は気に留める様子もなく、「もっとこうした方が形良く作れるよ」なんて、持ってる技を伝授してくれるんです。山形の農家さんは心がでかいなあとびっくりしています。
―実際にやってみて、農業の魅力ってどういうところにあるでしょう?
やっぱり作業は大変です。でもアルバイトをしている時、自分は「やらされてる感」しかなくて、頑張ろうと思えなかったんです。けど、畑では「次はこうしてみよう」と、やってみたいことが次々湧いてくる。やったことが全部自分に返ってくるから、リスクはあるけどやりがいはありますよね。
あと、農業をやってみて、人を認められるようになりました。というのも、例えば農薬をまく・まかない、マルチを張る・張らないといったふうに、農作業にはいろんなやり方、考え方があって、それぞれにメリット・デメリットがあります。〇か×じゃ語りきれない。
芸人の世界もそうだと思うんです。芸人ってばかやってるみたいだけど、こう見えてそれぞれ「理想の笑い」を持っている。こだわりは本当に人それぞれで、前は「それはちゃうやろ」って思うものもあったんですが、今は、自分以外を認めないなんてつまんないなと思うようになりました。いろんな人の考え方、見方を受け入れ、尊重できるようになった。そんな感じです。
農業って、正解もなければたぶん間違いもないんです。自分の力ではどうにもならないこともある。どのみち大変。でも、そこが本当に面白い。芸人のボクが農業をする理由。それはほとんどが「下心」だったと思いますが、得られたものは予想以上に大きかったですね。
―今後の目標や夢はなんですか?
農業をきっかけに、ありがたいことにテレビに出る機会が増えたり、お仕事を頂けるようになりました。農業を入り口に、やっぱりボクは芸人として、山形の面白いところを面白く発信して、山形のスゴさを全国の人に知ってもらいたいです。コロナが落ち着いたら、みんな山形に来てほしいですし。それで、山形に恩返しできればいいと思っています。また県内のマルシェなどで農産物を販売させてもらえる機会も多くなってきました。目下、県内35市町村全てを訪ねることが目標です。イベントがあったらぜひ声を掛けてくださーい!
2020年9月、初めてマルシェに出品したときの様子。ジャガイモを中心に販売しました(飯豊町)
2021年7月、飯豊町中津川のイベントにて。販売する品目がぐっと増えました。本坊ファームの野菜を目当てに、県内各地から来てくれるファンも増えたそうです。県内全市町村を訪ねるのが目標!
本坊元児(ソラシド)
H O N B O U G A N J I
PROFILE
ほんぼう・がんじ=1978年、愛知県生まれ。芸歴22年のお笑い芸人。吉本興業所属。2001年、水口靖一郎とコンビになり「ソラシド」を結成。同期の「麒麟」がブレークする傍ら、Mー1グランプリ準決勝に3度進出するもいまひとつ芽が出ず、アルバイトで食いつなぐ。「山形県住みます芸人」の笑福亭笑助さんの後任として声が掛かり、18年に山形に移住した。20年、コロナ禍をきっかけに始めた農業に奮闘する様子を「人生が変わる1分間の深イイ話」(日本テレビ系)が番組で密着。第4弾までが放送された。南陽市ラーメン大使、やまがた特命観光・つや姫大使、西川町月山ふるさと大使。過酷なバイト生活をつづった著書『プロレタリア芸人』(扶桑社)も好評販売中。
Twitter:@honbouganji
「キミヘ」で「教えて!本坊さん」を連載中!
https://kimie-yamagata.jp/syukatsu/honbousan-20211104/
期待の担い手
おいしいと喜ばれる物
ちゃんと育てられる人へ
13代続くという農家に生まれ、大学卒業後、北海道の空港で働いていましたが、愛知県出身の夫と共に、「以前から興味があった」という農業を継ぐことを決意。鶴岡市の農業経営者育成学校(SEADS)で研修を受けています。「まずは実家で手掛けている米やだだちゃ豆などの作物をちゃんと作れるようになることが目標です」
加藤 圭さん(27)
(鶴岡市)
SEADS農場ではダイコンや温海かぶなどの野菜を栽培中。自然の中で体を動かす毎日は楽しく、意外と女性でも無理なく作業できることを実感しているそうです。「将来的には個人の方にも販売し、おいしいと言ってもらえる物を作りたいです」
自分でやったことが
自分に返ってくる
果樹農家の長男。小さい頃から遊んでいた畑で働くことが「当たり前」と感じ、県立農林大学校を卒業後、就農。シャインマスカットと桃、ラ・フランスを新たに導入しました。桃の苗木が枯れてしまうなど苦労を重ねながら、5年目の今年は軌道に乗った手応えを感じているそう。「やった分だけ返ってきて、やるほどに改善点も目標も見えてくるのが農業の魅力」と語ります。
紺野達矢さん(25)
(南陽市)
5年目のシャインマスカットは昨年からようやく収穫できるようになり、今年は約2000房を出荷予定。「房が大きく甘くできた」と品質的にも及第点。果樹の中でも作業していて楽しいのは「桃」。育つのが早く、大きくて赤くジューシーな実に仕上がるとやりがいを感じるそうです
家族が守ってきたもの
私も守りたい
農家の3姉妹の末っ子。県外での学生生活の後、ブライダル業界で6年働きたくさんの家族を見てきた過程で「自分も家族が守ってきたものを守りたい」と思うように。昨年末に退職し、今は働きながら県の農業総合研究センターで研修を受けています。「お客さまにも自然にも優しい果物を育てたい。やりたいことがたくさんあります!」
松田祥子さん(29)
(天童市)
稲作に加えサクランボやブドウ、リンゴ、ラ・フランスなどを栽培する松田家。就農して毎日が新鮮で充実しているという松田さん。「木の成長を見られるのが楽しい。前職の時のお客さまが果物を買いに来てくださったり、人とのつながりのありがたさを感じています」
真面目にやれば稼げる!
大事なのはセンス
「自分で何かやってみたい」と27歳の時、建設業から転身。夫婦で大玉トマトの栽培を手掛け、年間約40㌧を出荷しています。就農1年目の失敗を受け、2年目から栽培方法を変えたところ、所属JAで収量1位を獲得し収入が倍増。以後、安定して収量上位にランクインしています。「学歴とか関係ない。大事なのはセンスです」
長瀬あゆみさん(33) 剛さん(34)
(大蔵村)
10棟のハウスで6000本のトマトを育てる長瀬さん。人手不足でも「あきらめない!」が夫婦の合言葉。成った実は取りきり、出荷するそうです。「真面目にやればなんとかなります!」。大蔵村農業後継者の会「メンズ農業」ではInstagramで情報を発信中
@men.s_nougyo
変化する海に
対応できる漁師に
県の底引き網漁業の協議会長を務める偉大な父・裕実さんの背中を追って、20歳から萬龍丸(鼠ケ関港)に乗り込みました。海の仕事の魅力は、漁師にしか見られない光景に出合えること。「魚が入った網を引き上げると、海がブワーッて膨らんで見えるんです。それは大量の証しだし、最高の瞬間です」
飛塚宗人さん(27)
(鶴岡市)
県がブランド化を進める庄内北前ガニ。海の幸をよりおいしく消費者に届けるため、生きたまま運んだり、魚を船上で生け締めやエア抜きするなど工夫と勉強を重ねています。変化する海に対応するためはえ縄漁にも挑戦したいそうです。
現場が好き
地元の林業を活性化したい!
県立農林大学校の林業経営学科1期生。林業に興味がなかった藤田さんが進学を決めたのは、高校の先生の勧めと映画『WOOD JOB!(ウッジョブ)』の影響だったとか。卒業後は最上広域森林組合に就職。国有林や民有林で、ハーベスターなどの高性能林業機械を駆使しながらスギ材を切り出したり、間伐などの作業に汗を流しています。
藤田 翼さん(24)
(真室川町)
現場が山奥にあるため働いている姿はなかなか人目につきませんが、「自然の中で自然を相手に仕事できることが最大の魅力」と藤田さん。機械化が進んでいるため活躍する女性も増えているそうです。「後輩たちにも魅力を伝えて、地元の林業活性化に貢献したいです」
一生続けたい仕事
地域の先達から学びながら
県立農林大学校を卒業後、就農。「良い牛を育てなきゃ」と気負ってガムシャラだった数年を過ぎ、最近ようやく周りを見渡せる余裕が出てきたそうです。「牛の育て方って1足す1は2じゃない。地域の名人に教えを請い、素直に学び続けたいです」。一生続けたい仕事だからこそ、成績や等級に加え、継続していくための方法論も研究中です。
加藤優志さん(28)
(金山町)
黒毛和牛の繁殖から肥育まで一貫して経営。「おいしいと喜んでもらえる牛を育てたい」と加藤さん。大学校で出会った熱い仲間や先生、地域の先達など、人とのつながりは加藤さんの宝物。「下の世代にも大切につなげていきたいです」
学生たちの挑戦
[新庄神室産業高校 生物環境科]
さまざまな作物
育ててみたから
分かることがある
課題研究でそれぞれ「果樹」「野菜」「草花」「食品製造」などから選択し、栽培・収穫や加工・製造などを行っています。自分たちで育てていく中で、農業の楽しさや大変さを学んでいます。失敗することもありますが、だからこそ食べ物の大切さを実感し、収穫した時に大きな達成感を味わうことができます。
[左から](3年)沼澤 花さん/丹 愛華さん / 伊藤優夏さん/大鳥采音さん
フルーツパプリカと、普通のパプリカの2種類を栽培し、糖度や果肉の厚さの違いなどを調べます。卒業するまでに、このフルーツパプリカを使用してスイーツを作ってみたいです
草花の課題研究で紅花染めで使用する最上紅花を私たちで栽培しています。この最上紅花の乱花を摘み取り、洗ってすりつぶし、丸めて平らにし乾燥・発酵させると紅餅になります
[村山産業高校 農業科学部]
未来の農業のために
チームワークで
研究に取り組む
農業を科学的に研究し、栽培や商品開発に生かしています。「サトイモ班」と「ソバ班」があり、サトイモ班は、里芋の超促成栽培や、新商品の企画開発に取り組んでいます。ソバ班は、ソバや稲などと共生し、植物の成長を助けるという微生物のエンドファイトの研究をしています。
[左から](2年)東海林尋斗さん / (3年)部長 柴田梨奈さん / (2年)落合琉依さん
ソバ班では、いろんな種類のソバを使ったり、肥料と組み合わせデータを見たりしています。微生物なので結果はそれぞれ違い、その発見や菌を見つけた時が面白いんです!
里芋の茎の先端から茎頂部分を切り取り、栄養分の入った液体に入れ培養していきます。そこで培養したウイルスフリーの種芋を植えることで、より品質の良い里芋を作ることができます
[加茂水産高校 海洋技術科航海系]
将来は山形の漁業を
引っ張っていく!
技術を磨き、高みを目指す
県内唯一の水産高校で漁師を目指しています。漁師は天候に左右されたり、漁具も自分で直さなければいけないけど、その分自分の技量を感じることができます。何よりも大漁だった時に感動し、達成感にやりがいを感じています。将来は山形の漁業を引っ張っていく存在になるために頑張っています。
[左から](3年)五十嵐和生さん / 白旗勇斗さん/丸藤晴巳さん
航海や漁業、船舶運用など難しい科目も多いですが、今の学びを生かして一人でも活動できる漁師になりたいです
鳥海丸でマグロやイカ、カニを取る漁業実習を行い、昨年は定置網漁業もできるようになりました
[山形大学農学部 食料生命環境学科]
責任感と愛情を持ち、
家畜に快適な環境を与えたい
「快適性に配慮した家畜の飼養管理」を意味するアニマルウェルフェアに基づき、肉用鶏の飼育環境による変化の研究と、地域の未利用資源を飼料に活用できるか、廃菌床を使い、肉用鶏の変化の研究を行っています。畜産業は、手入れした分だけ結果が見えるのでやりがいを感じます。
[左から](4年)田中沙依さん / 中根衣梨さん
アニマルウェルフェアの研究では、鶏の飼育環境で、きれいな床材と汚い床材では、鶏の状態にどう変化があるのかを調べています。アニマルウェルフェアは卒業後も生かしていきたいです
(3年)萱場成隆さん
3年次はまだ飼育する家畜が決まっていませんが、ミニ卒論的な取り組みで、未利用資源として、バナナ果皮の新しい飼料としての可能性を探ることを目的として研究しました
[農林大学校 林業経営学科]
体力だけじゃできない。
知識と技能を身に付け
森を守る
山で仕事をするためには、しっかりとした知識と技能を習得し、安全に対する高い意識を持つことが必要です。自然が好きで林業を学びに来た仲間がたくさんいて、学びを深めていくたびに、森の素晴らしさや楽しさを知りました。学校での学びを生かし、森を守っていきたいです。
[左から](2年)赤塚亮太さん/逸見 潤さん / 菅原奏良さん/峯田竜弥さん
実習では実際に木を伐採します。しっかりと安全確認を行い、基本動作を確実に行っています。また、万が一に備え、学科独自の安全管理、緊急時行動マニュアルを作成しています
伐採方法の練習を行っています。実習中は、自分のことだけではなく、仲間が作業している時もしっかりチェックして、お互いに注意点などを指摘し合っています