2024.02.21
タンキュー!!!2024 ⼭形県探究型学習課題研究発表会
山形県探究型学習課題研究発表会とは
2018年から山形県教育委員会、山形県高等学校文化連盟科学専門部が主催。参加者は三つのグループに分かれ、12分のポスター発表を5回繰り返し、質疑に答えました。審査を経て、一般の部(発表テーマ総数95)で最優秀賞、山形大学小白川キャンパス長賞理系部門・文系部門、高等学校文化連盟科学専門部の部(発表テーマ総数19)で最優秀賞など各賞が決まりました。
県内高校生が探究型学習の研究成果を披露する県内最大級の発表会が昨年12月 、山形市で開催されました。
24の高校+1団体から114本の研究がエントリーした大会の模様や受賞者についてお伝えします。
“きびそ”から抽出したフィブロインの優位性とその活用 【鶴岡南高校】
(写真左から)佐藤龍廣さん、渡部孝哉さん、成田純彩さん=いずれも2年
試行錯誤のその先はビジネスにもつながっている!
鶴岡の伝統産業であるシルクを再び盛り上げるため、蚕が最初に吐く糸「きびそ」に着目。きびその約70%を占めるタンパク質「フィブロイン」を繊維として使うことを目標に、優位性を明らかにしようと試みました。フィブロイン、綿、ポリエステルを用意し、「消臭」「吸湿性」「速乾性」について比較した結果、特に吸湿性、消臭について優位性を確認できました。さまざまなデータが欲しかったので、消臭の実験では〝臭さ〞の原因となるアンモニアと酢酸の二つの成分について、気体検知管での測定と自分たちの鼻でかぐ二つの方法で確かめました。濃度を一から設定するのが難しく、苦労したポイントです。
この研究ではこれまで日本学生科学賞で県最優秀賞を、中高生対象のビジネスプランコンテストで最優秀賞を獲得。仮説を立てる→実験→データを考察…という一連の流れを理解して、良いデータが出たからこそ、さまざまな評価を頂くことができたと思っています。賞に挑戦するたび、専門家の方々から助言と新たな視点を得られたのも貴重な経験でした。今後は繊維としての実用化に向けて、さらにデータを上積みしていく予定です。
ガラスウール充填ポリプロピレン複合材料を用いた3D造形品の作製と物性評価 【米沢興譲館高校】
横山夢人さん=理数探究科2年
リサイクル×3Dプリンター課題解決と新材料の二兎を追う
近年、日本では空き家の増加が問題になっています。そして空き家を取り壊す際に出る廃棄建築材料のうち、断熱材に使われるガラスウール(GW)はリサイクルが困難という欠点があります。そこでGWを有効に再利用し、今注目の技術である3Dプリンターのフィラメント(材料)として活用できないか、研究を始めました。私の仮説は「GWを含んだフィラメントは、そうでないフィラメントに比べて3D造形品の物性、造形性を高めることができる」。これを実証するため、GW入り・無しの材料×2種類=4種類の試験片を作成。「引張」の力学実験を行った結果、GW入りは硬度が強いが、引張強度はGW無しが高く、GWによって「一概に物性が高まったとはいえないが造形性の向上は確認することができた」という考察を得ることができました。
今後は実用化に向けて、引張だけではなく圧縮など違う力のかけ方を試したり、熱・光への耐性を調べたりしたいと考えています。今回の受賞により、今夏に岐阜県で開催される全国高等学校総合文化祭に出場します。全国大会に行くのは、先輩方の研究発表に同行した昨年の鹿児島大会に続き2度目。先輩方から学んだ発表のノウハウを生かして、全国でも最高賞を目指したいです。
元気なのに「貧血?」~「かくれ貧血」とフェリチンの関係~ 【谷地高校】
(左から)軽部美香子さん、鈴木紅葉(くれは)さん=2年
「カヌー部で最高のパフォーマンスを」「人体の不思議を解明」→二人三脚で調査!
女性アスリートのFAT(無月経など3主徴)の継続研究として「貧血」について着目しました。私の疲れやすさの原因を軽部さんと探ると「潜在性鉄欠乏症」の疑いが。ヘモグロビン値は正常なのに、フェリチン値が少ないという検査結果でした。筋肉量の多いアスリートは特に貯蔵鉄量が足りず「かくれ貧血」になりやすいことが分かりました。血液検査の重要性や、食事に鉄分を取り入れると疲労体質が改善することを、多くの人に伝えたいです。
語彙習得における画像記憶の効果 【東桜学館高校】
(左から)涌井東吾さん、大沼美月さん、青野樹里さん、那須彩香さん=2 年
“みんなの困り事を解決したい”。誰かの役に立ちたい私たちの研究成果
英単語をもっと効率的に覚えたい!という身近なテーマの解決を目指しました。従来の単語リストと、画像付きの単語リストを用意し比較実験。画像付きの方が、短期記憶、長期記憶ともに効果的だった一方で、個人の単語イメージとイラストが一致しづらい抽象名詞、形容詞などは覚えにくいという結果となりました。今後は4こま漫画を作成し「ストーリー記憶法」を用いてみんなの学習に貢献したいです。
電車を走らせたい ~鶴南生たちの心理頭脳戦~
【鶴岡南高校 地域活性化ゼミ】
佐藤雅仁さん、笹原凛佳さん、伊藤颯汰さん、
岩野咲姫さん、今井小鈴さん、大場鈴穂さん
羽越本線が赤字の危機を迎えていることから、駅周辺を盛り上げるためのお店紹介やイベントを企画しました。立場の違う人からの意見を聞くことが大事だと学びました。
忘れたなんて言わせない!課題連絡システム
【酒田東高校】
船越心花さん、武田ひとみさん、石川綾乃さん
宿題が多いといわれる酒田東高校。全教科の課題が一目で分かるシステムをつくることで、宿題忘れはもとより、生徒の学力向上にもつなげられるようにしたかったんです。
崖っぷちに立たされた選手 ~PKから読み取る選手のプレッシャーとパフォーマンスの関係~
【山形中央高校】
舟山颯太さん
サッカーの全国大会でのPKを分析したら「成功したら勝利」と「失敗したら敗退」のシーンでは成功率に大きな差が出たんです!
驚きました。
インクルーシブデザインで広がる可能性
【米沢興譲館高校】
甲田彩香音さん、横澤実莉さん、舟山心梛さん
障害のあるなしにかかわらず一緒に遊ぶことができたらと、視覚障害にターゲットを絞り、触覚が異なる11種類のカードを作りました。
美しき黒板 ~斜め45度の法則は正しいのか~
【東桜学館高校】
古沢拓眞さん、大沼十斗さん、
加藤陽道さん、村岡浬來さん
「斜め45度」が黒板を消す角度として最適か調べました。発表後の質疑応答では、4人でも見えなかった部分を的確に指摘されました。また次の実験に向かえます。
室内ごみ削減の研修 ~ほこりはどこから発生しているのか~
【ヤマガタステムアカデミー】
川瀨瑛仁さん
自分の部屋のほこりには何が含まれるか、マイクロスコープを使って分析しました。その結果、繊維が多いことが分かりました。今後はごみが増える条件など深掘りしたいです。
山形大学理学部教授
栗山恭直さん
この発表会で毎回審査員を務めていますが、年々、研究の内容が濃くなっていると感じます。指導する先生方にノウハウが蓄積されてきたこと、生徒たちも小・中学生の頃から探究型学習に取り組み、素地ができていることなどが要因でしょう。ただ研究によって、内容の濃さに差が開いている点が気がかりです。テーマを決めることができたら、まずは先行研究のリサーチにもう少し時間をかけてほしい。そのためにも、せっかく毎年発表会をしているのですから、高校生の研究内容を共有できるデータベースのような仕組みがあれば、県全体のレベルがさらに上がると思います。
また今年度はコロナが5類に移行したこともあり、一般の観覧がOKになりました。さまざまな質問を受けることは、発表者の成長につながります。今後はできれば、中学生の観覧が増えてほしいですね。高校生が真剣に研究に取り組み、堂々と発表する姿は憧れの対象になり得ます。そんな姿に影響を受けて高校を決める生徒も出てくるかもしれません。大学もこれからは「探究型入試」を取り入れる学校が増えていくと予想されます。取り組んだ研究が、その先の進路につながる可能性が広がっています。高校3年間の貴重な時間を使って取り組むのですから、ぜひ存分に研究に没頭してください。分からないものを解明する面白さを味わってほしいと願います。